醤油の起源は、鎌倉時代にさかのぼります。禅僧・覚心が中国から金山寺味噌を持ち帰って製法を広めていた時に、桶にたまった液のうまさに驚きました。それが昔は醤油を”溜まり”と呼んでいた理由。室町時代には現在と同じように醤油と呼ばれるようになり、各地で製造が始りました。 醤油は長い間、上流社会での嗜好品として発達し、江戸時代までは黒大豆からつくる醤油がもてはやされました。黒大豆の表皮から出る紫色の色素が、高貴な色”紫”に通じるところから「むらさき」と呼ばれ貴重品として扱われていたのです。 織田信長の時代に来日した西洋人は、調味料として醤油が優れていることを知り、江戸時代に入るとオランダ人たちがこぞって長崎から本国に送り、豊かな収入を得ていたといわれています。このことを知ったフランスのルイ14世のシェフは、醤油が肉料理の味を引き立てるのに気付き、グルメのルイ14世のために、宮廷料理の隠し味に使っていたというエピソードもあります。 醤油には、大豆や麦のたん白質が発酵中に分解したアミノ酸といううま味成分が20種近く含まれています。その中でも最も多いのはグルタミン酸と呼ばれるうま味成分。グルタミン酸は19世紀の中頃に、ドイツの化学者が発見しましたが、調味料に興味がなかった当時の西洋人には、大した意味を持たなかったようです。 しかし日本人はグルタミン酸のうま味成分に注目し、次々とうま味調味料を製造していきました。そういう歴史から考えると、日本食の豊富な味わいは、醤油から起源を発しているといっても過言ではないかもしれません。
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