小料理屋や会席を食べさせてくれる和食の店で、“香の物”というお品書きを見た事はありませんか?“香の物”とは結局は漬物の事ですが、言葉の音感からしてどこか高尚な響きが感じられます。
ではなぜ、漬物を“香の物”と呼ぶのかご存知でしょうか?“香の物”というくらいですから、“香り”に何か関係があるに違い無い……そう、つまりは、日本に古くからある香道に由来するのです。
日本には往来より、茶道、華道、無道などとともに香道という雅びな遊びがありました。
香道は、香木をたいてその香りを聞き分け(香道では、香りを嗅ぐ事を「香りを聞く」といいます。)どんな香木が炊かれているかを当てる競技です。その時に、臭気を取るものとして食べられていたのが生大根でした。生大根には口の中の臭気を消す作用があると考えられ、微妙な香木の香りを聞き分ける嗅覚を整える役目を果たしていたのです。しかし、当時は今のように一年中、生大根があるわけではありません。そこで糠味噌で漬けた大根の漬物を使っていたのです。糠味噌の匂いは、香の香りの邪魔にならず、鼻をとうすのに役立つとも考えられていました。
雅びな貴族の遊びであった香道の前に食べるものとして、“糠漬”という呼び名はあまりにもふさわしくありません。それで生まれた言葉が“香の物”だったのです。ですから厳密に言えば、“香の物”とは大根の漬物だけを指す言葉。それが時代とともに変化し、今ではちょっと上品な呼び方として漬物全般を“香の物”と言うようになったのです。
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